33年間の夏休み(26)2007年07月15日 10:47

「むぅかしあひるぅはからだぁがおおきくて」同じ病室に入院していた2才年上の女の子とあなたが一緒に歌っている。前の年に父さんが買って来たSONYのテープレコーダーを病室に持ち込んでふたりで録音したものだ。「…うぅみもわたればさかなぁもたべたよ」ぼくは最近ようやくネットを検索して、この歌が「気のいいあひる」と題されたボヘミア民謡であることを知った。ぼくがどこかで習い覚えた歌は同じ歌に別の訳者が歌詞をつけたもので、「気のいいがちょう」という題だった。モノラル録音の小さなテープリールはまだ実家の押し入れに眠っているはずだが、おそらくカビと湿気にやられてとうに再生できない状態になっていることだろう。何十年も通電していない録音機もたぶん使えなくなっているに違いない。でもあなたの歌声だけは今でもぼくの頭の中でほがらかに響いている。歌のあひるは川を渡れずにぶらぶらしているうちに体がすっかりなまってしまったそうだが。