33年間の夏休み(28)2007年08月13日 05:23

ひと月ちかく間があいてしまった。

この間例によって仕事に追いまくられていたが、病院もさすがに受診者が少ないようで、今朝はぽっかりと仕事がない。

今年もまた妹の命日が近づいてくる。
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とうさんはいつものように朝5時にひとりで起きて仕事に出かけてしまった。痛みのため眠れぬ夜を過ごした妹と、そのかたわらで一晩中看病していたかあさんは明け方の涼しさでようやく眠りに落ち、そのまま起きてこない。きみはパンと牛乳だけの朝食を済ませると、駅前のダイクマで先日買ってもらった軟式テニスのラケットを持って外に出る。細い消しゴムみたいな突起がびっしりと並んだ厚いゴム底のテニスシューズはコンクリートの階段でもまったく音を立てない。団地の3階から1階まで狭い階段を降りて、まだ誰も歩いていない舗装道路に立ち、きみは素振りを始める。ラケットはいちおうカワサキ製だが、 CourtPet という頼りないネーミングにふさわしい安物で、きみはそのラケットを使い続けた中学の3年間ずっと、口さがない仲間たちにばかにされて悔しい思いをすることになる。きみのフォームが極端な「手打ち」になって手首ばかりを酷使することになり、おかげで腕相撲は強くなったけど球に伸びがなく、冴えない後衛で終わったのはそもそもこの軽すぎてバランスの悪いラケットのせいではなかったかと今にしてみれば合点がいくのだけれど、手に入れたばかりの当時はお気に入りだった。何しろ夏休み前までの練習といえば新入部員は基礎トレーニングと球拾いばかりで、コートに入ることさえなかったのだ。ラケットはガットの切れた先輩のお古だったし、履いているのは学校指定のランニングシューズだった(だからこそコートに入るわけにはいかなかったのだが)。だからこうして同じく安物とはいえれっきとしたテニスシューズを履き、自分のラケットを振っているだけで気分が高揚してくるのだ。フォアハンド100回、バックハンド100回、気温はすでに上がり始めていて、きみは額にびっしりと汗をかく。ツクツクボウシが鳴き始める。きみは背後から迫ってくるものに気づかず、うしろめたいとも思わない。