33年間の夏休み(20)2007年07月03日 23:17

ベッドから看護婦さんが用意してくれた車いすへと、あなたは慎重に移動する。渡り廊下をわたり、エレベーターに何度か乗り換えて旧館地下の放射線治療部へ向かうのだ。主治医の先生と看護婦さんからは「目には見えない強い光線で悪いところを治すのだ」と説明されたが、目に見えない光というのがイメージできず、これから何が起こるのかもさっぱり見当がつかない。途中で見かけるのはほとんどが病気の大人たちで、ガラス瓶を下げた棒を自分で持って歩いていたり、眼帯をかけていたり、包帯を巻いていたり、マスクをしていたり、病院って変なところだ。読めない漢字(治療計画室)が5文字、白いプレートに書かれた部屋にはお医者さんとはちょっと違った白衣を着た男の人がいて、台の上に寝かされてレントゲン写真を撮ってくれる。それからまた車いすに乗って、今度はなんだかだだっ広い部屋に連れて行かれる。壁から大きなキカイが突き出ていて、その下にまた台が置いてある。キカイから四角い光が出て、その光の当たったところにマジックで印をつけられる。冷たくてくすぐったい。これが病気を治してくれる光線なのかと思ったが、目に見える光だからどうやら違うらしい。最後にもう一枚写真を撮るから動かないでね、という声が聞こえる。写真を撮るあいだは広い部屋にひとりきりで置いて行かれてしまうので心細くなる。明日からは毎日ここに通って光線を浴びるのだ。