Works in Progress: 星間戦争(47)2006年08月03日 14:03

私はまず台所と食器洗い室の間のドアを閉めてから食料貯蔵室へ入っていった。食料貯蔵室はしかしながら空っぽで、食物はひとかけらも残っていなかった。どうやら前の日に火星人がすべて持ち去っていったらしい。このことがわかると私はようやく絶望の念を抱いた。11日から12日目にかけては飲まず食わずで過ごすはめになった。

口とのどがからからに乾き、力が衰えていくのがありありとわかった。私は食器洗い室の暗がりにへたり込んで、惨めっぽく気落ちしていた。思い浮かぶのは食べ物のことばかりだった。耳が聞こえなくなったのかと思ったのだが、それはくぼ地の方から聞き慣れた機械の動作音がまったく聞こえてこないせいだった。のぞき穴のところまで音を立てずに這っていくだけの力が出せず、外を覗くことはできなかった。

12日目になるとあまりの乾きに耐えかねたので、火星人たちに聞きとがめられる危険も顧みず、流しのわきの雨水ポンプに突進し、きいきいと音を立てながらすえて黒ずんだ雨水をコップに何杯か汲んで飲み干した。おかげで大いに生気を取り戻したし、ポンプの音が聞こえたはずなのに触手がさぐりを入れてこないのことには勇気づけられた。

ここ数日の間、私は副牧師とその死に様についてとりとめもなくあれこれと考えてばかりいた。

Works in Progress: 星間戦争(48)2006年08月03日 14:15

13日目にはもう少し水を飲み、うたた寝をしながら食べ物のことや実行不可能な脱出計画についてとりとめもなく考えていた。うたた寝のたびに恐ろしい幻影や副牧師の死や豪華な晩餐の夢を見た。だが眠っていようと起きていようとするどい痛みを覚えて何度も水を飲まずにはいられないのだった。食器洗い室に差し込んでくる光は灰色から赤に変わっていた。私の乱れた想像ではそれは血の色なのだった。

14日目に私は台所へ入ってみたが、驚いたことに例の赤い草のシダ状の葉が壁の穴を覆うように茂っていて、薄暗い部屋を深紅に染めていたのだった。

15日目の朝まだき、台所の方から奇妙な、しかし聞き覚えのある音がくり返し聞こえてきた。じっと耳を澄ますうち、犬が匂いを嗅いだり前肢で引っ掻いている音だと気づいた。台所へ入っていくと赤い葉の隙間から犬が鼻面を突っ込んでいるところだった。これには大いに驚かされた。私の匂いを嗅ぎつけた犬は短く吠えた。

Works in Progress: 星間戦争(49)2006年08月03日 14:32

そっとこの場に呼び込めたら、おそらく殺して食ってやれるだろうと私は思った。それに火星人たちの気を引かないためにも殺してしまうに越したことはない。

「よしよし、いい子だ」と言いながら私はゆっくりと這い進んだ。だが犬は突然頭を引っ込めてどこかに行ってしまった。私は聞き耳を立てた。むろん、耳が聞こえなくなっていたわけではなかったのだ。しかし、確かにくぼ地はひっそりとしていた。鳥が羽ばたくような音がして、カラスのかすれた鳴き声が聞こえてきたが、それきりだった。